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大阪高等裁判所 昭和48年(く)2号 決定

少年 M・I(昭三〇・一・一生)

主文

原決定を取消す。

本件を神戸家庭裁判所姫路支部に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は抗告人作成の抗告申立書記載のとおりであつて、その要旨は、少年は本件非行を深く反省し、他人に迷惑をかけないような立派な社会人になれる自信が出来たので、一日も早く親元にかえり真面目に仕事をしたいと考えているが、少年を中等少年院に送致した原決定は著しく不当な処分であるから取消されたい、というのである。

よつて、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査するに、本件非行は、(1)昭和四六年一一月広島市内アパート共同炊事場において腕時計一個(時価八、〇〇〇円相当)を窃取し、(2)昭和四七年一二月広島市内パチンコ店で従業員所有の現金一万二、〇〇〇円を窃取したという事案であり、少年は社会性が未熟で、怠惰的生活態度が身につき、誘惑があれば再非行に走る危険性があること、少年の母親において少年の監護につき熱意が認められなかつたこと等から考えると、原裁判所が少年を中等少年院に送致する処分をしたことは首肯できないわけではない。しかしながら、少年は三歳の時実父母が離婚し、中学卒業まで実父方で育てられ、その後母を頼つてその再婚先に養子として入籍したもので、少年の性格も恵まれなかつた家庭環境に基因するとも考えられ、かかる少年に対しその生活環境を調整しながら適当な社会資源を活用して指導し、その生格改善をはかることも可能であると考えられること、また少年には非行歴がなく、保護処分に付せられるのは本件が初めてであり、しかも本件非行は回数も二回にすぎず、被害も多額でなく、常習的なものとは認められないこと、少年の知能は普通であり、精神障害は認められず、少年は現在深く反省し、真面目に仕事したいと改心し、更生の意欲もうかがわれること、養父の意見が調査されておらず、養父及び実母の協力を求める余地もあること等を考慮すると、少年を施設に収容して矯正教育を施さなければその更生を期待できないとまでは考えられない。現在の段階では少年を直ちに少年院に送致するよりは、むしろ少年を試験観察に付し、或は保護観察所の保護観察に付し、勤労を通じて真面目な生活を体得するよう善導し、その更生をはかるのが相当であると考えられる。本件抗告は理由がある。

よつて原決定を取消し、原裁判所においてさらに適当な保護処分をさせるのを相当と認め、少年法三三条二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 本間末吉 裁判官 原田修 栄枝清一郎)

参考二 昭四八・一・一〇付少年作成の抗告申立書

抗告の趣旨

今日審判があり、中等少年院に一年ときまりましたが、僕は、ここに抗告いたします。

僕は、小さいころから、かんきようもよくなく今まで悪い子でした。中学の時から悪い事をして、よくしかられ、注意を受けた事が数々あります。そんな時注意を受けても心の中から、悪かつたなど思わず、ただ口先だけですみません、もう二度と悪い事はしませんから、許して下さいぐらいにしかすぎなかつたのです。そして今回再び事件をおこし、鑑別所に入つたおかげで、自分自身から、反省をし、どうしたら、あやまちをおこさず、また、どうしてこんな事になつたかを考えるようになり、ちやんと社会に出てからの自分は、おもに点々としていた、仕事を中心に、計画を立て、社会に出ても、今の自分なら人様に、迷わくかける事なく、まじめにやつていけると、自信がつきました。そして、初めは、いやがつていた鑑別所と言う所を、今では自分を悪の道から目をさましてくれて、ありがたく思つていました。もし、警察につかまらずこのままふらふらしていたら、もつと数々の事件をおこしていたかもしれません。それを思つただけでもありがたくてなりません。

それは、僕は、多く悪い事をしてきました。しかし、人間には一度の失敗ぐらいはあると思います。そこで気がつき、立ちなおつていくか、そのまま悪い人間になつていくか、二つに一つしかありません。それに対し僕は、これから、立ちなおり、悪いゆうわくにも、負けず、りつぱな社会人になれると自分でいつてはおかしいかもしれませんが、自信たつぷりでした。そんな僕に対し、中等少年院行きはきつすぎると思います。

僕は中学を出て少しすると、仕事を点々と変えるようになり、数多く変えてきました。そして審判の時に、仕事を変えた理由を聞かれ答えました。その時裁判官は、そんな事はうそだ、信じられないと言つて取りあげてくれませんでした。ほんとうなのに、残念でなりません。

それに君は仕事を変わりすぎていると言われました。でも僕は、自分から、この仕事はいやだと思つた事は、一度もありません。それに、僕の今まで反省した事、今から先どうしたらいいと思う、など何も僕の意見を聞いてくれなかつた。そう審判の仕方はないと思う。裁判官は、一方的です。

それから、これは審判の時初めて知つた事ですが、実の父が悪い事をして刑ム所に入つた事など知つているかね、だから、君が、父のようにならないため、少年院へ行つて勉強してきなさい、父がしたから子供の僕がそうなるとは思いません。そこで僕は、はらが立ち裁判官は一方的すぎるし、僕の意見もぜんぜん言えなかつた。悪い事をした僕には、仕方ないと思つています。でも、これからの事も考えました。親もとをはなれふらふらしていた僕は、今からは義理の父であるけど、お父さんとしてなついていき一日も早く親の所へ帰えり仕事へ行きたいのです。仕事さえちやんとしていれば何も悪い事する必要はありません。今までまじめに出来なかつた仕事を、一からやり直そうと仕事がしたい気持で一ぱいです。少年院へ行つても仕事は出来るかも知れません。しかし、そういう気持でなく、仕事にぶつかつていきたいのです。そんな僕に少年院は、不当だと思つています。勝手な事を書いているかも知れませんが、もう一度審判していただきたいと思つております。少年院行きのいいわたしはなつとくがいきません。

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